Home Again

4LDKマンションのインテリア変遷キロク

Paul Auster ”In the Country of Last Things” 58~98p -3

主人公は18歳のアンナ・ブルーム。女性が主人公となっているオースターの作品を読むのは,これが初めてだ。ちなみに冒頭には,"for Siri Hustvedt(現在の奥さま)" と書かれてあったりします(^^)。

勤め先の新聞社から派遣されたまま行方不明になった兄ウィリアムを捜して,想像もつかないほど絶望的な国を訪れた主人公。彼女が祖国に残した恋人(?)にあてて書いている手紙,というスタイルで小説は描かれている。

死ぬことでしか絶望から逃れる道はないという国では,死に向かってひた走る人々,最後に残された内面の自由を求めて高所から飛び降りる人々,自ら暗殺組織に自分の殺人を依頼する人々,安楽死を求める人々などで溢れている。そんな状況ででも生きようとするものは,死体を運んだりゴミ拾いをして飢えを凌いでいる。しかしそこには,生き続けようと懸命に努力すればするほど,自分の中の何かを殺さざるを得ないというパラドックスが潜んでいる。

教えられていた兄の住所は廃墟と化していた。手がかりを失ったアンナは否応なくこの国での生活に巻き込まれていく。渡航時に持ち合わせた金で,ゴミ拾いのライセンスと商売道具のカート(スーパーに置かれているようなものらしい)を確保し,なんとか仕事を始めたものの*1,日々野宿生活で,隙あらば財産を奪おうとする輩からカートを守らなくてはならない。

難しい言い回しや難単語は少なく,英語はかなり読みやすい。この設定はちょっとゴーイン?と思いつつも,独白するアンナとともに,読み手もこの国の泥沼に引きずり込まれていく。イラク北朝鮮ミャンマーといった国々の状況が究極化していくと,このような状況もありえないことではないと思ったり,ホロコーストと結びつけて考えてしまったり。

*1:ゴミの中からクイン("City of Glass"の主人公?)のパスポートを見つけたりする