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「化学物質過敏症家族の記録」を読む

化学物質過敏症家族の記録 (健康双書)

化学物質過敏症家族の記録 (健康双書)

作者は岩手大学を卒業後,学童保育の指導員,小学校講師,高校教師を経て私立高校に勤めていた女性。この本は,彼女の一家が'95年に盛岡へ引っ越して以来2年間住んだアパートの畳の下に偶然有機リン系殺虫剤が撒かれていたことによって,当時2歳と4歳だった幼い子供2人も含め,家族全員が化学物質過敏症になってしまった経緯とその後の経過を綴った記録である。現在は実家のある雫石町で暮らしているそうだ。

環境的に恵まれていると思っていた盛岡でもこうしたことが起こるという事実にとても驚いた。しかも有機リン系殺虫剤は特殊な毒物ではなく,ごく当たり前のように使われているものだという。これは誰にでも起こりうることなのだ。それでいて,その被害は想像を絶するものがある。外界の化学物質と接っする度,反応を起こす対象は増えていくし,食べられるものは減っていく。外界は数限りない化学物質で覆い尽くされているだけに,その影響は計り知れないものがある。

読んでいるうちに胸が締め付けられるような思いになるが,それでも彼女の実家が岩手山の麓で農業を営んでおり,無農薬の野菜や山菜を調達することが可能な環境にあることや(だが,これだけの環境に置かれていてもなお,食品の調達にはものすごい苦労があるという),学校スタッフの協力的な姿勢,そして何より,これだけ過酷な状況でも何とかベストを尽くそうとしている彼女自身の姿に打たれる。

しかし,こうした実家を持たない自分たちのような者が,もし東京や大阪などの都心で同じような状況に陥ったら?・・この本によると,統計に表れる不登校の子供の症状のいくつかは,彼女の子供たち自身が経験した症状と非常に似ているという。知らず知らずのうちに,化学物質過敏症になっているかもしれないというわけだ。それがもし事実であるとしたら本当に恐ろしいことだが,まずは少しでも多くの人が化学物質過敏症に関する知識を得ることが必要だと思う。知識が広がれば,自分や身近な人にこうした可能性を感じた場合の対応がいち早くできるだろうし,被害者家族に対する理解も深まっていくだろう。厳しい状況の中,そのための手がかりとなるこうした貴重な本を世に出してくれた作者に感謝。