Home Again

4LDKマンションのインテリア変遷キロク

Paul Theroux ”The Mosquito Coast” 287~383p -7 読了

一気に読了。想像していたよりも、はるかに恐ろしい話だった。こんなとんでもない話を書き上げてしまったセローは、ただ者ではない。

天才的な頭脳と強靭な肉体を持ちながらも、自分の正当さを信ずるあまり世間と折り合えない父親と、彼を絶対的に崇拝している母親の元で育てられた子どもたちの恐ろしい家族物語は、次第に米国という国あるいは高度資本主義社会そのものに対する読者の信頼をも根底から揺さぶることとなる。誰よりも祖国を愛しているからこそ、その「歪んだ」姿を激しく忌み嫌った父親の行動は、なんとも皮肉なことに、気持ちが悪いほど現代の米国政府の政策と重なる。アリー・フォックスは、「滅んでいく国から救うため」家族をホンジェラスの密林に連れてきて、とんでもない地獄に陥れるのだが、大統領はイラク大量破壊兵器を持っていると偽り、大量の兵士をイラクに送り込み死に追いやった。

知識や情報の源となる学校教育を絶たれた上、生まれ育った文明からをも隔離され、父親の頭脳と行動力だけに頼らざるを得ない状態に追い込まれた家族の中で、その父親が徐々に狂気に陥っていくという恐ろしさ。文明から捨て置かれた荒々しいジャングルで、ここ以外はすべて滅亡していると父親から刷り込まれた家族にとって、これはまさに出口のない恐怖となる。だがこの苦境からは、父親が侮っていた「野蛮な原住民」たちによって辛うじて救われる。

さらに恐ろしいのは、小説の終盤、地獄のような苦境から救われたはずの家族にも、決して安住の地が待っているわけではないということだ。すばらしい文明を享受しているかに見える祖国アメリカも、間違いなく父親の言うとおり決して完璧ではなく歪んでいるのだ(だからこそ今回のイラク戦争のような事態も起こるのだろう)。しかし、家族は帰っていく。帰るしかないのである。ここまで身をもって、文明の危うさを裏の裏まで知らしめられた彼らに平安は訪れるのか、作者と共に祈りたい気持ちになる。