Home Again

4LDKマンションのインテリア変遷キロク

Paul Auster ”The Book of Illusions” 93~125p -7

シルクロード第一章」&「X-ファイル」を観ながらのんびりと。

Hector Mann夫人Frieda Spellingと2度手紙の遣り取りをしたあと,ようやく彼女を信用するようになる。3度目の返事が帰ってきたら,彼らの待つNew Mexico州まで行こうと決意するZimmer。しかし,来るべき手紙がさっぱり届かない。とうとう二週間経過,通常業務(もちろんChateaubriandのことだ)に戻る。

そんなある日,街に出てある韓国レストランで食事を取ったときのこと。またしても,飲み過ぎてしまう。しかも外はひどいどしゃ降り。そんな中,帰り道でふらりと現れた野良犬を避けようとして電柱に激突。幸い命に別状はなかったものの,タイヤは溝に。体の芯までずぶ濡れになりながらなんとか脱出し帰宅すると,自宅周囲は真っ暗。手元の鍵は6連で,どれが家の鍵やらわからない。ますますぐっしょり濡れながら,懸命に鍵をひとつひとつ確かめる。やっと正しい鍵がわかったところで,その鍵を落っことしてしまう。

Expect the unexpected, they say, but once the unexpected happens, the last thing you expect is that it will happen again.

マーコは卵を落っことして絶望してたが,ジンマーは鍵を落っことして絶望している。絶望にとどめを刺すのは,こうしたささいなコトなのかもしれない。

そんなとき,車のライトを照らして窮状を助けてくれたのがAlma Grundだった。Hector夫人Frieda Spellingの使いとしてやってきて,Zimmerが帰宅するまでずっと待っていたという。Hectorが死にかかっているので,今すぐNew Mexicoに行こうという。しかし,Zimmerはおよそ想像できる限りサイテーな状況。一刻も早く熱いシャワーを浴びて布団に潜り込みたいのだ。当然,帰ってくれの一点張り。

そんな二人だが,丁々発止の遣り取りの末,最終的には翌朝仲良く旅立つことになる。Alma GrundはKakeidoscopeでHector映画を撮り続けたカメラマンの娘。30代後半か。Hector夫婦のそばで育ち,離婚後6年以上掛けてHectorの伝記を書き上げようとしていた。その直前,Zimmerが”The Silent World of Hector Mann”を出版したというわけである。Hectorは失踪後,彼女の父と何点かの作品を作り上げたが,自分の死後はそれらを一切合切燃やすよう言い残しているという。そんなこんなで,彼女は必死でZimmerをHectorに会わせ,その秘蔵フィルムを見せたがっているというわけだ。

Almaが左頬にbirthmark/生まれつきのアザを持つことが印象深く描かれている。右と左で印象のガラリと変わる顔。だがZimmerはそんな彼女に対し,

You 're the only person I've ever met who looks only like herself.

と言う。彼女の父も,彼女に対し

It was a special present from God, and it made more beautiful than all the other girls.

と言ったそうだ。彼女自身は,その言葉を支えにしながらも,やはり神を恨むことが度々あったという。彼女が大きな影響を受けた本として,ナサニエル・ホーソンのずばり”The Birthmark”が紹介される。この本の主人公GeorgianaもAlmaと同様,美しく生まれながら,片一方の頬にアザを持っている。彼女は科学者のAylmerと結婚するのだが,彼は妻のアザを取るのに全精力を注ぎ込む。もともと本人はアザをまったく気にしていないのだが,夫はそれを彼女の「欠点」としてしか考えられない。彼女は夫を愛するが故に,夫に協力を惜しまず,言われるままにさまざまな薬を試す。とうとう最後には命まで失うことになってしまうのだが,命を失ったとき,彼女のアザも消えていくという話。

The birthmark is who she is.

というわけである。娘を持つ親として,考えさせられるエピソードだ。

…Hector危篤という切羽詰まった状況なので,New Mexicoまでは当然空路で行くこととなる。Almaに心を開いたZimmerは劇薬Xanaxの力を借りずに飛行機に乗る決意をする。が,やはりいざフライトとなると,子供たちが味わったであろう恐怖にシンクロしてしまい,耐えきれない吐き気に襲われる。しかし,ふと自分の背中をなで続けてくれているAlmaの手の温かさに気づく。それを息子Toddが味わったであろう母Helenの温かさと重ね合わせることで,救われるのである。

話がますます盛り上がってきたところで第4章はおしまい。