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亀も空を飛ぶ

盛岡ではたった一週間、しかも一日一回だけの上映ということで、会場のフォーラムに着くと、上映30分前にもかかわらずなかなかの人がいた。イラン人の監督によるイラククルド人たちの映画ということもあって、リュックサックを背負った、「活動」やってますという雰囲気のお客さんが多かったように思った。

・・以下、ネタばれありますので、ご注意あれ

舞台は2003年のイラククルド人の小さな村で、大人たちも唸るような行動力で、国際情報を得るためのパラボラアンテナを設置したり、子どもたちの日々の仕事をまとめたりする利発な少年サテライトと、村にやってきた難民の兄妹を主軸とする話である。兄妹は小さなよちよち歩きの男の子を抱えているのだが、彼は家族がフセインの軍に襲われた際、妹が兵隊たちによって身ごもらされてできた子どもなのだ。どうみても14~15歳にしか見えない妹で、赤ん坊は1~2歳ぐらいだろうか。この現実は非常に重い。

サテライトは彼女に好意を抱き、何かにつけて彼女を助けようとする。赤ん坊は当然のことながら、彼女の弟と思われている。この子がまた、哀しいくらいに可愛らしく、村の子どもたちからも問答無用に愛される。だが、母である妹にとっては死ぬほどの屈辱を思い出させる子どもであり、どうしても受け入れることができない。

冒頭、映画は彼女が崖の淵に立って、自殺を思い図るシーンから始まるのだが、それ以降も、彼女は何度も自殺を試み、子どもを殺そうとする。この子の愛らしさは、彼女にとっては何の救いにもならないのだ。

一方、彼女の兄は地雷で両腕を失ったらしい。彼以外にも、村には足や腕のない子どもで溢れている。しかし彼には予知能力があり、身近なトラックの爆発からイラク戦争の開戦、終結までをもズバリと言い当ててしまう。そのことを知ったサテライトは、自ら設置したパラボラアンテナによって得た英語放送からではなく、彼の予言を用いることによって、村人たちの信頼を一段と高めていく。みなには「英語がわかる」ということで一目置かれているサテライトだが、実はほとんどハッタリ勝負なのだろう。そんなタフな姿にも、とにかく圧倒される。

タイトルの「亀」とは、よちよち歩きの赤ん坊が沈められた池で泳ぐ亀である。沈んでいる赤ん坊のそばで泳ぐ亀の姿は、まるで自由に飛んでいるかのように見えた。しかし、そこには子どもたちに課せられた絶望しかない。

難民兄妹の抱える重すぎる過去、サテライトら村人たちの厳しい生活等など、淡々と描かれるこの村のリアリティはひしひしと伝わってくるのだが、見終わったあとには涙も出ない。ただありのままの現実が両肩に重くのしかかるという感じだった。

実は昨日、息子をこの映画に誘ったのだが、ためらいながらも結局は断られてしまった。その理由がまた、「ガンダム・シード」のビデオを見たいという、彼としてはあまり大っぴらにしたくないことだっただけに、なかなか言い出しにくかったようで、気持ちを言い出せないことでまた気持ちが鬱屈している様子も窺えたから無理強いはしなかった。12歳という反抗期の兆しが見え始めた年頃、せっかくの親の薦めを受け入れたいという気持ちと反抗したい気持ちがせめぎあい、難しいものもあるのだろう。自分がそれくらいの年齢の頃を思い返すと、いかにも作りもの的「ガンダム」世界の方が安易で魅力的に映るのもわかる。けれど、この映画は彼にも見て欲しかったなぁと思った。