Home Again

4LDKマンションのインテリア変遷キロク

Paul Auster ”Moon Palace” 178~191P -21

とうとう洞穴に,グレシャム3兄弟がやって来る。エフィング絶体絶命の危機だが,地の利を生かして3人を次々と射殺し,なんとか危機を乗り越える。死体の足下を見るとそこには2万ドルの現金と宝石類,1万ドル相当の無記名債券の入ったズタ袋が。うまくやれば一生暮らせるだけの大金である。もはや何の良心の呵責を感じることなく,エフィングはそれらを手にBluffの町に出る。そこからいくつかの町を転々した後,サンフランシスコに居を構え,以前のジュリアン・バーバーは,トマス・エフィングという新たな名でほぼ1年ぶりに社会復帰を果たす。トマスはトマス・モランと死んだ隠遁者トムの名から,エフィングは一種の "pun:だじゃれ" で "F-ing",すなわち "Fucking" の意。自ら "fucking Thomas" を名乗るようになったわけである。

サンフランシスコではグレシャム兄弟から奪った金を元手に株式投資で大金を得る。失踪前のジュリアンよりも裕福になったエフィングだが,パーティ三昧の日々を送るうちに,以前の自分を知る人物と鉢合わせする羽目になる。その場ではなんとかお茶を濁せたものの,その日からもはや人前に出られなくなる。

He lapsed into(~に陥る) inertia(無気力), could not make plans or think about the possibilities that were open to him. Overwhelmed by guilt(罪悪感), by the terrible thing he had done to his life…

そうこうするうちに,チャイナタウンに入り浸り,アヘンと女に身を窶すようになる。浪費が高じて,莫大な財産も3分の1まで減ってしまう。もう,

It would have gone on until the end, he said, until he had either killed himself or run out of money…

と,死ぬか金が尽きるかしかないと思い詰めていた矢先,

…nothing less than a disaster could have saved him.

大災難としかいえないようなことが,結果的にエフィングを救うこととなる。ある真夜中,雨の中を傘も差さずにアヘンでよろけながらサンフランシスコの急坂を登って家路に着こうとしていたとき,突然頭を殴られて坂を転げ落ちるのだ。その衝撃は "literally exploded:文字通り爆破された" ような凄まじさで,この事故をきっかけにして,エフィングは一生歩けない体になる。しかし,このことで完全に以前の自分と決別することができるようになり,アメリカを飛び出しパリに発つことを決意するのである。

その後,現在に至るまでの50年は嘘に嘘を重ねた人生となる。マーコに話す内容もこれ以降,トーンが変わり,脱線やつじつまの合わないことが多くなる。どこまでが嘘でどこまでが本当のことだか,さっぱりわからない。

It struck me that he was doing it more from habit than from any intention to deceive me.

それが意図的ではなく習慣として行われているという事実に,マーコはエフィングの人生の凄まじさを感じるのだった。…ここに至ってようやくエフィングの長い話も終わりに差しかかる。あとはマーコがそれを "obituary:個人略伝" としてまとめなくてはいけないのだ。まったくご苦労なことである。